夜中に、キッチンへ入った。
そっと小さなCDプレイヤーのスイッチを入れた。
美しいピアノの音色が聞こえてくる。
オーブンの火をつけて、私は卵とバターを取り出した。
ひたすら、ケーキを焼いていたのだ。
シンと静まり返った夜中に、私は末っ子のケーキ焼いた。
そして、虚しかった。
どこまでも虚しいので、ケーキ作りに専念した。
出来上がったケーキは、とても良いにおいがした。
レモンケーキが良いというリクエストだったのだ。
バターがたっぷりと入っており、息子も喜ぶに違いない。
それにしても、ケーキを焼くという暖かい作業に、喜びを感じられずに、ひたすら孤独感を押し付けられていたtのはなぜだろうか。
こんなケーキでは愛情が通じないと言う恐怖かもしれない。
一生懸命やるだけでは意味がないのだ、と言う恐怖であるかもしれない。
それでもケーキを焼かない誕生日はない。
明日、紅茶と一緒に、この甘いケーキを口に含んだときは、おそらくもっと具体的な悲しみが襲ってくるようで、陰鬱な気持ちを抱えつつ就寝する。
明日起きたら、また違う一日が始まる。
ケーキを焼いた人は、他人になるかもしれない。
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